世に語り継がれる手紙は数多いが、これも心に残るひとつ。
野口英世は、黄熱病の発見者としてまた自身もその犠牲者として、ロックフェラー医学研究所での活躍も有名であるが、研究熱心のあまり母：シカには寂しい思いをさせたようである。
（余談であるが、当時、電子顕微鏡がなかったことが原因らしいが、英世の研究成果はその後ことごとく見直され、ロクフェラー医学研究所にも銅像こそあるものの、研究員は見向きもしないとか。同研究所に勤務した、かの福岡ハカセの感想である。)
ロックフェラー医学研究所
アメリカに渡ったきり帰って来ない英世を思い、無学と言ってもいい母：シカが英世に宛てた手紙の一部である。どんな飾った名文より心打つ「・・・はやくきてくされ。はやくきてくたされ。はやくきてくたされ。はやくきてくたされ。いしよのたのみてありまする。にしむいてはおかみ。ひいかしさむいてはおかみ。しております。・・・」
さすがに研究熱心の英世も、これを見て急遽帰国を決意した。
母シカの手紙
おまイの。しせ(出世)には。みなたまけ(驚き)ました。
わたくしもよろこんでをりまする。
(中略)
べん京なぼでも(勉強いくらしても)。きりかない。
いぼし(烏帽子:近所の地名)。ほわ(には)こまりをりますか。
おまいか。きたならば。もしわけ(申し訳)かてきましよ。
はるになるト。みなほかいド(北海道)に。いて(行って)しまいます。
わたしも。こころぼそくありまする。
ドカ(どうか)はやく。きてくだされ。
かねを。もろた。こトたれにもきかせません。
それをきかせるトみなのれて(飲まれて)。しまいます。
はやくきてくたされ。
はやくきてくたされ
はやくきてくたされ。
はやくきてくたされ。
いしよの(一生の)たのみて。ありまする
にし(西)さむいてわ。おかみ(拝み)。
ひかし(東)さむいてわおかみ。しております。
きた(北)さむいてわおかみおります。
みなみ(南)たむいてわおかんておりまする。
ついたち(一日)にわしをたち(塩絶ち)をしております。
ゐ少さま(栄晶様:修験道の僧侶の名)に。ついたちにわ
おかんてもろておりまする。
なにおわすれても。これわすれません。
さしん(写真)おみるト。いただいておりまする。(神様に捧げるように頂く)
はやくきてくたされ。いつくるトおせて(教えて)くたされ。
これのへんちち(返事を)まちてをりまする。
ねてもねむられません
