60兆の細胞が紡ぐ人生

NHKスペシャル「人体ミクロの大冒険」から。

感銘を受けた本ですが、またまた人体の不思議、再確認を記しておきます。

細胞の主体性

遺伝子が生物の成り立ちや行動までも支配している、というのはもう明らかなんですが、しかし細胞にはそれぞれに主体性があり、遺伝子を選び取っているんです。

人間の最も大きい細胞とは、卵子で、反対に最も小さい細胞が精子というのも何だか面白いです。精子の大きさは0.06mmで、卵子の1/20。また最も数の多い細胞はというと、それは赤血球で全体の1/3と言われるから、20兆。血液は水分が流れているのではなく、赤血球という細胞が所狭しと移動しているのです。

赤血球に運ばれる酸素がどのくらいのスピードかというと、心臓から指先まで約1分、そのうちの肘から指先までがほとんどの所要時間。太い血管の中は凄まじいスピードで動きますが、毛細血管のゾーンに入ると、毛細血管の径は赤血球より狭いので、密着して酸素を手放しながら進みます。

暗黒大陸の小腸

小腸は口からも肛門からも遠く、医学的には最も中を覗きにくいことから、暗黒大陸のような存在です。但し、最近ではダブルバルーンという内視鏡が開発され、明らかになりつつあり、繊毛状の構造ですが、その細胞は二、三日で置き換わります。人間の口から入ってもそこはまだ体外で、小腸の細胞壁を通り抜けてやっと体内というところから、外の世界との接点で摩耗するのでしょう。

 

胎児の新世界への準備

お腹の中の赤ちゃんは、へその緒を通じて母親から栄養をもらっていますが、よく考えてみればそうですが、意外なことに血液は繋がっていません。血液は混じりあわさずに酸素や栄養が供給されています。

妊娠中の母親の食生活が胎児に永続的な影響を与える、というのは想像に難くないでしょうが、妊娠中の母親が過食だと肥満を助長する細胞が作られていく、などという話ではなく、胎児は新世界を生き抜く為にもっと鮮烈な選択をしています。仮に母親が、妊娠中にダイエットと称して炭水化物を控え、低栄養な状態で胎児に栄養供給をしていると、胎児は新世界の食料事情が飢餓と推察し、それに耐えられるような脂肪細胞を多く作っていき、実際の世界では栄養過多となって肥満化するのです。

細胞の入れ替え

細胞の種類は200、数は600兆と言われています。そのうち脳には1,000億の神経細胞がありますが、その一本一本に数千から一万のトゲ状の手があり、繋がる相手を始終探している図は、なかなか想像しにくいですが、精密としか言いようがありません。

人体全体でいえば、入れ替わる細胞は1日3,000億、概20日で大半が入れ替わります。20日前の物質は体の中にはほとんど存在しません。

細胞は入れ替わりますが、加齢とともに老化もしていきます。特に免疫細胞は若いころは敵に向かって一斉に元気に移動していきますが、60代になると動きは鈍り、70代では活発な免疫細胞はほとんどおらず、敵味方の区別もつかず、徘徊しているような免疫細胞すらあるので、これでは病気しやすくなるのもうなずけます。

腸内細菌

人体を形成する60兆の細胞のほかに、腸の中には100兆から1,000兆といわれる腸内細菌がいて、自己のような他者のような存在として、親密かつ不可欠なものとして住みついています。人体では消化できない多くのもの(でんぷんとグリコーゲン以外の糖類や食物繊維ほか)を助けを借りて消化しているのです。

IPS細胞

かの山中教授が作り出したIPS細胞ですが、万能細胞のようにもいわれていますが、実際にはすべての細胞になれるのではなく、多能性幹細胞である胎盤とかにはなれないため、丸ごとの人を作ることはできません。

たった一つの受精卵から、60兆の数に分裂していくのはがん増殖に匹敵するパワーでもあり、IPS細胞の作製に使われた4つの遺伝子の中にがん遺伝子も入っていることも、象徴的とも言えそうです。

以上、備忘録として残しました。